写真は、ローライフレックスSL350です。
二眼レフとコンパクトカメラ・ローライ35で有名なドイツのフランケ&ハイデッケ社(ローライ Rollei)が1970年代に発売した一眼レフカメラです。
ぼくは1992年ベトナムのサイゴンでこれと同じ型のカメラを買いました。
サイゴン、場所はレロイの日本料理店の近くだった気がします。
床屋さんの店先に中古のカメラがたくさん並んでいました。キラキラ光ってとても目を引きます。
なんで床屋さんがカメラ売ってんのかな? と、通りかかるたびに不思議に思えて、ある日聞いてみましたんです。床屋さんの看板とかがみ、床屋のイスは出てたけど、散髪に来てるお客さんをみたことがなかったしね。
話してみると50がらみの親父さんの英語はなかなか流暢なものでした。
「おれ、南の従軍カメラマンだったんだ」
崩壊した南ベトナム政府軍の写真を撮っていたということでした。ふーん、と半信半疑のぼくに、憤然と店の奥から何冊もアルバムを持ってきて見せてくれました。ほとんどが白黒の従軍写真です。どうやら本物らしい。
ぼく自身は、あんまりカメラのことは知らなかったんですが......
「これはキャノンで、ライカのコピー、で、これはソビエトので、これもライカのコピーだ。本物のライカはこれで....」
床屋商売が暇なんでしょうか、ピカピカ光るカメラを手にとって、いろいろ説明してくれました。
へー、キャノンって、ライカのコピーを作ってたのか、時代だねぇ...
「コピーといったって、キャノンのはいいぞ。ソビエトのはクズだけどな」
そんなこと、今のサイゴンでいっていいのかな。あ、ソビエトはロシアになっちゃったから、もういいのか?
さすがに「ライカ」は知っていましたので、
売りもんだろ? 50ドルでどうだい?
当時のベトナムの公務員の月給が20ドルと言われていましたので、切りのいい値段を言ってみたんです。当時のレートが1米ドル80円くらいだったかな...
すると、親父さん、電話帳のようなザラ紙で綴られてある英語のカタログブックをとりだしてきて
「冗談じゃない、アメリカじゃこれと同じものがXXXXドルだぜ」
とせせら笑います。言われた金額は忘れましたが、物好きできまぐれな買い物に払うには高すぎる金額でした。
ここはサイゴンで、カリフォルニアじゃねえぞ、とは言いませんでしたけどね。
ライカ以外では「ローライ」も知っていました。もちろん、二眼レフも有名ですけど、コンパクトカメラのローライ35を使っていたことはあったんです。ぼくの両親は写真・カメラ好きで、コンパクトなローライ35持っていたので時々借りて使ってました。
そこにあるローライはいくらだい?
いかにもレトロな二眼レフが並んでいましたので聞いてみました。
「400ドルだ」
うーん、って、悩んでいると、例のカタログを取り出して、これは、この型で、なーたら、かーたら、と説明してきます。
さらに、うーん、と悩んでいると、取り出してきたのが...
ローライの一眼です。
こんなのあんのかよ? 本物〜?
またもやカタログです。これは、なーたら、かーたら...... 商売に手応えを感じたのか、暇つぶしモードがビジネスモードに切り替わります。
いくら?
「200ドル」
うーん......
「150ドル」
買った! レンズ付きです。プラナーというレンズの名前を初めて知りました。
それから数年ベトナムに赴任していたのですが、このカメラでいろいろ撮りました。
従業員の女の子がおしゃれしてアオザイ着てきたんで撮ったり、グエンフエの花市で、かわいい子に声かけて写真撮らせてもらったり、楽しかったな。いろいろ思い出もあります。
赴任が終わって、帰国して、父親にこの一眼レフのSL350をみせたところ、
「コージロー、ローライはこれ出していないんだよ......」
言いにくそうに、つぶやいていました。偽物をつかまされた息子を傷つけたくなかったのだと僕は思っています。
そうなのか〜、だまされちゃったか〜
なんせ当時のベトナムはニセモノ天国。オリジナルにないものまでニセモノが出回ってるっていう世界でした。
きれいな写真に撮れていて、このカメラ、気に入ってはいたんです。
あの子も、この子も......、みーんなこれで撮ったんだ。
でも、「にせもの」って聞いて、こころが萎えてしまいました。
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その後、不況、転職・リストラ、転職また転職...京都へ引っ越し...
カメラのことなんて、すっかり忘れていました。
ところが、20年以上も経った2015年のこと。
デジタルカメラを買ったんです。
↓↓↓↓
kuchiki-kohjiro.hatenablog.com
オリンパスのミラーレス一眼を買って、ココロに火がついてしまいました。ネットでカメラとか撮影とか、いろいろ調べてみると......
問題の一眼は...
本物だった!
ローライは、1970年に一眼レフのSL (single lens)を出していたんですと。
...... おやじー、ほんものだったじゃん...
父親の名誉のためにいうと、このSL350モデルは開放測光で、その前モデルの絞込み測光・シンガポール生産のSL35モデルの改良型でした。350は本当にドイツでほんの少ししか生産されなくて、日本にもほとんど入ってきていなかったそうです。
SL35ではなくて「350」であること、下にも書きますが、ドイツ製と刻印されてあることで価値を出そうとした「偽物・改造モノ」と父親は思ったのではないかとも考えられます。
どっかにあるはず!
と、探したんですが、でてこない。たぶんだれかにあげてしまった可能性が高い。見つからないからなおさらどうしても欲しくなって、2015年、デジタルカメラを買ったすぐ後に、このカメラを買い直しました。
ドイツ製です。少なくともそう刻印されている。だからぼくはこれをベトナムで買ったんだし、だからこそ、親父が「ニセモノでは?」と思ったんでしょう。
ネットで買ったんです。カメラが届いてあらためて手にとって、ファインダーをのぞいてみる。そこからのの光景が懐かしい。もっと懐かしかったのが、匂い。金属とカメラのフィルムの匂いでした。これこれ!
ベトナムで買ったカメラの方は、ニセモノだと思いんでいてうっちゃっちゃってたんですけど、その後いろいろ思い出してみると、ぼくがうっちゃっちゃったのを知人がちゃんと保護して、オーバーホールしてメンテナンスして、いまもちゃんと使ってくださっています。その個体は、露出計もちゃんと直して動いてるという...!
できれば返して......
って、お願いしたんですが...
「無理!」の一言でございましたヽ(´▽`)/
そらそうだ。
でも、大事に使ってくれてるようで、ありがとう。
©️ 朽木鴻次郎
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